川島みつる 認知症へのアロマテラピー施術レポート

認知症へのアロマテラピー施術レポート by 川島 みつる

80代認知症の女性にアロマテラピーを施術した経過報告です。
最初に病棟の看護師長さんからのお話では、夜の睡眠が浅く行動も落ち着かないので、アロマトリートメントで少し落ち着くことを希望される。
実施期間: 2010年4月~8月 実施場所: 病院内の痴呆病棟

〈第1回〉
ナースステーションで椅子に座っていらっしゃるところにお伺いする。
お部屋に移動しながらアロマやトリートメントの説明をするが、「わかんないよ。やだよ。」と繰り返すばかり。お部屋に着いてベッドに横になっていただこうと靴を脱がせても、またすぐに靴を履こうとし、途中まで身体を倒してもそこからは頑として横になろうとされない。声がけや質問に対しても、「気持ち悪い。やだよ。」と独り言のように繰り返し、意思の疎通が取れない状態。
様子を見ながらベッドに腰掛けた状態でトリートメントを行うことにするが、上肢にオイルを塗布した時点で立ち上がろうとするのでそれ以上は行えず。時々腹部の辺りを触って、「ごはんが残っていてこんなになっちゃった(腹部がポコンと出ている)  気持ち悪い・・・」とおっしゃるので、服の上からさする。下肢は靴を履いたまま、こちらもオイルを塗布しただけで終了。
終始落ち着かず、私の手をずっと握っていた。独り言のように「やだよ。」と繰り返すばかりで、何が嫌なのか聞いても「わかんないよ。」とおっしゃるだけ。トリートメントはほとんど行えなかった。

〈第2回〉

車椅子に乗ってフロアをうろうろしていて、他の方の病室に入って動こうとしないので、そのままそこで車椅子に乗った状態でトリートメントを行うことにする。
前回のときより、いくらか表情が和らいでいるような感じを受ける。
ティッシュにレモンの精油を垂らして嗅いでいただくも「気持ち悪い」とおっしゃるので、芳香浴はなし。
上肢にオイルを塗布するが、相変わらず「やだよ。」「気持ち悪い。」と繰り返す。しかし「オイルを塗るとお肌がつるつるになりますよ。」「気持ちいいですよ。」などと声をかけながら行うと、前回よりは 長い時間トリートメントをさせてくださる。
途中手をぎゅっと握ってくるので、「トリートメントが出来ないので手を離していただけますか。」と声をかけると、すんなり手を離してくださる。その後、下肢のトリートメントを始めてすぐに「ごはん。ごはん食べさせて。」と繰り返すようになり、 トリートメント用具が入ったバスケットを指差し、「あの中にごはんが入ってるでしょ。」とおっしゃる。入ってないと伝えても「入ってる」の一点張りで、バスケットを目の前に持っていくとウェットティッシュを指差し「それ、それ」とおっしゃるので、「これはご飯じゃないですよ。」と説明。しかし、まったく聞く耳持たずという感じで、だんだん興奮してきて腕を振り上げたり落ち着きがなくなってきて、私の手を指して「汚い」と言い出したのでトリートメントを終了する。

〈第3回〉

デイルームのソファでウトウトされているところにお伺いする。声をかけると目をうっすら開けられるが焦点は合わず、発語などの反応はなし。身体に直接エアコンの風が当たっていて冷えていたので、 「場所を変えましょうか。」と聞いても全く動く気配がない。様子をみながら上肢からトリートメントを行う。
今まではずっと同じ言葉を繰り返したり動かれて落ち着きがないなど、ほとんどトリートメントができない
状態だったが、今回のトリートメント中は終始ウトウトされていたため、腹部以外の上下肢は普通に
トリートメントをすることができた。呼吸、表情ともに穏やかだった。

〈第4回〉

ベッドで横になられているところにお伺いする。芳香浴用のレモンの香りを「レモンの香りですよ。
分かりますか?」と声をかけながら鼻元に持っていくと、香りを嗅ぐようなしぐさをして香りの認知も
できている様子。こちらの声がけにも、うんうん、とうなずくなど、今までにない反応がみられる。
表情もとても穏やか。上肢のトリートメントを始めてしばらくすると、「ごめんなさい」と何度か言って私の手をぎゅっと握ってこられるので、両手で包みながら「大丈夫ですよ。○○さんは悪いことはしてないんだから、謝ることないですよ。大丈夫だから安心してください。」と声をかけると安心されたのか落ち着いた様子。手の力も抜けて、その後は腹部、下肢とトリートメント中はずっと眠っていらっしゃり、終了後も声をかけても眠ったままだった。

〈第5回〉

師長さんの手を握ってフロアを歩いていらっしゃったので、デイルームのソファに移動していただく。
お菓子の入った袋を師長さんから受け取りつまんで食べておられる。「トリートメントをさせていただいてもいいですか?」と尋ねると、うん、とうなずかれる。芳香浴用にラベンダーの香りを嗅いでいただくが、「わかんないよ。」とおっしゃる。上肢のトリートメントから始める。ときどき「ごはんを食べるんだ」「分からないよ」とおっしゃったりするが、「おやつがありますよ」と袋を指差すと、そこからつまんで食べるという動作を何度か繰り返す。
最初の頃と違って、かなり落ち着いて静かにトリートメントを受けていらっしゃる。ウトウトすることはなかったが呼吸も表情も穏やかだった。最後に「ありがとうございました。」と声をかけると、うん、とうなずかれた。

〈第6回〉

デイルームのソファにいらっしゃるところにお伺いする。芳香浴用にラベンダーの香りを嗅いでいただき、「いい香りですか?」と尋ねると、うんとうなずかれる。上肢のトリートメントから始めるとすぐに呼吸が穏やかになりウトウトし始める。表情もとても穏やか。 途中で目を覚まして、私の名札を見て「アロマ。かわしま・・・」とおっしゃるので、「私の名前ですよ。(相手を指差して)○○さんですよね?」と言うと「違うよ」とおっしゃり、自分の名前が分かってない様子。
手をしきりに握ってこられるので、「握っていたほうがいいですか?」と尋ねると、うんとうなずかれるので、 しばらく両手をにぎったままにする。手を握っていると落ち着く様子。大きなあくびをしたり、ときどき笑ったりとてもリラックスされているようで、こんな反応は初めて。終了後「また来週も来てもいいですか?」と尋ねると、「来るの?」とおっしゃるので、「来ますよ」と伝えると、うん、とうなずかれた。

〈第7回〉

お部屋に伺うと息子さんがお見舞いにいらしている。週1回アロマのトリートメントをさせていただいていることを説明して、最初に比べると大分状態が良いことを伝えると、「嫌がったり暴れたりしませんでしたか?前にリハビリもやっていたんですが、本人が全く言うことを聞かなくて、結局見てもらえなくなっちゃったんですよ。」とのことだった。今までの経過を簡単に説明すると、ちょっと驚いかれた様子。トリートメントするためにデイルームのソファに移動する。芳香浴用のラベンダーの香りを嗅いでいただいて準備をしていると、「息子が・・・。」と突然おっしゃったので、「今日は息子さんがいらしてるんですよね。良かったですね。」と息子さんを指しながら声をかけると、うんとうなずかれる。
その様子を見ていた息子さんが、「2~3ヶ月前から、会いに来ても自分のことが息子だと分からなかったのに、香りを嗅いだだけで思い出すんだ。香りって不思議ですね。」と、さらに驚かれた様子。
その後、息子さんが帰られてトリートメントを始めると、手を握ってこられるのでまたしばらく握ったままにする。そして立ち上がってお部屋に行こうとされるので、手を引きながらお部屋に移動しベッドに腰掛けた状態で上肢の続きを行う。上肢が終わった時点で眠くなってきたのか身体を横たえようとされるので、靴を脱がしてベッドに横になってもらう。腹部、下肢とトリートメントを続けているうちに、呼吸が深くなり、イビキをかきながらお休みになる。ぐっすりお休みだったので、そのまま部屋を退室する。前回よりもさらにリラックスされている様子だった。

出張アロマ*まんまる 川島みつる
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